この照らす日月の下は……
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シェルターのドアを閉めたところで、ようやく安堵のため息をつく。
「とりあえず、水分をとっておけ」
カナードがそう言いながら全員にボトルを配った。
「おそらく長丁場になる。少しでも体力を温存しておけ」
さらに彼はこう告げる。
「……兄さん、あれは……」
「ザフトだ。どこぞのバカがここに地球軍の開発施設を内密に作ったんだ。その成果が地球軍に引
き渡されれば戦局がひくり帰る可能性がある」
だから、と彼はさらに言葉を重ねた。
「その前に奪取しようとしているんだろうな」
厄介な、と彼は続ける。
「大丈夫なの?」
「少なくともシェルターに逃げ込んだ人間は何があっても心配いらない」
ここはたとえコロニーが崩壊しても壊れないようになっている、とカナードは付け加える。
「万が一のことがあってもオーブ軍が拾ってくれる。他のシェルターに避難している家族とも確認
が取れ次第連絡できるようになるはずだ」
「詳しいですね」
さらに彼が重ねた言葉にサイがそう言う。
「一応、軍属だからな。もっとも、俺はサハクの私兵に近い立場だが」
だから結構自由がきく。そう言ってカナードは笑った。
「キラとは兄妹のようなものだからな。ご両親から『一人にしておくのが心配で』と言われたから
、上司の許可を取って顔を見に来たんだ」
おなかを出して寝ていて体調を崩していないかどうかが心配で、と彼はその表情のまま付け加え
る。
「そんなことしたことない!」
即座にキラはそう反論した。
「それはいつも俺が布団をかけ直してやったからだろう」
「覚えてない」
この会話が空気を和らげたらしい。サイの肩から力が抜けた。
「……外の状況がわからないのはちょっと辛いよな」
代わりにトールがぼやく。
「トール……」
「無理は言わない」
「本当にアンタは」
即座に三人が小言を言う。
「いいじゃないか! さっきちらっと見たのってザフトの軌道兵器だろう? 制御がどうなってい
るのか、すごく気になるんだけど」
これは研究者として仕方がないのかもしれない。
「それはそうだけど」
さすがのサイも、この意見は否定できないようだ。
「テーマがテーマだから、仕方がないのかしら」
「そうだね。あれだけ動けるようなOSを組めるなら開発も進むよね」
ミリアリアのつぶやきにキラも同意をする。
「僕だけならなんとかなるんだけど」
教授であるカトーからサンプルとして渡されたものを解析したから、とキラはつぶやく。
「でも、それじゃ意味がないから」
ナチュラルでも動かせないと、と続ける。
「それが難しいところよね」
「そうなんだよね」
ミリアリアにうなずき返しながらキラはボトルに口をつけた。
「火星や木星の開発はコーディネイターだけでもナチュラルだけでも不可能だもの」
キラがそういえば他の者達もうなずいている。
「もっとも、平和にならないと難しいだろうけどな」
カナードの言葉は間違いなく真理だろう。
「そんな日が来るのかな?」
フレイがそうつぶやく。それにキラが言葉を返そうとしたときだ。不意にドアの方から鈍い音が
響いてくる。
「……奥に下がっていろ」
カナードが低い声でそう指示を出した。